Home / 恋愛 / 唇に触れる冷たい熱 / 上司と部下ではなく 4

Share

上司と部下ではなく 4

Author: 花室 芽苳
last update Last Updated: 2025-08-29 10:47:29

「今日からお友達、なんですよね? 私と主任、そして御堂《みどう》さんは」

 嬉しそうに微笑んでその手を揺らす横井《よこい》さん、そんな彼女を見て少しホッとするの。今の私達ではこうしてあげるのが精一杯だけど、もし何かあった時は本社からでも飛んでくるから。

 そう思っていると、どこからかスマホのメロディーが鳴りだした。すぐに動いたのは横井さん、バックの中からスマホを取り出して画面を操作している。

「この人もなんだかんだで、相当捻くれた心配性なんですよね。ふふ……」

 画面を操作しつつ何か楽しそうな雰囲気の横井さん、そんな彼女が気になり誰の事かを聞いてみると……

「ああ、今のメールは伊藤《いとう》さんです。あの人、どうしてか私の番号を知ってたみたいで」

「彬斗《りんと》君が? どうして海外にいるはずの彼が、今も横井さんと連絡を取ってるの?」

 彬斗君の考えている事は、昔からよく分からないとこがある。けれど、横井さんを巻き込むような事はしないで欲しいのに。

「大丈夫ですよ、私だってちゃんと伊藤さんの事は警戒していますから。でも彼は何故か私の愚痴を聞いてくれたりもして……」

 予想外の二人が仲良くなっている事に私と要は戸惑いを隠せなかったけれど、当の横井さんは彬斗君を愚痴吐き相手と見ているみたいで。

梨ヶ瀬《なしがせ》さんにはあんなに苦手意識を見せてるのに、彬斗君は平気だなんて横井さんもよく分からないところがあるわ。

「今夜は紗綾《さや》さんを私が独り占めしていいんですよね、御堂さん?」

 予約していたホテルの部屋、要《かなめ》と眠るはずのダブルベッドの上で横井さんは私に抱きついている。

 彼女は要と正々堂々と勝負をして、私と一緒に眠る権利を手に入れたのだった。

 普段はすんなり諦める要だけど今日はよほど諦めがつかないのか、部屋の端のソファーに陣取ったままでもう一つの部屋へと移動する様子はない。

「全く、御堂さんも諦めが悪いですよ? 紗綾さんとはいつでも一緒に眠ってイチャイチャベタベタ出来るんですから、今日くらい私に譲ってくれて良くないですか?」

 遠回しに要に向かってさっさと部屋を出て行けと伝える横井さん。もちろんそんな彼女に要が黙っているはずもなく……

「横井さんは俺たちが空港に着いてからは、紗綾を散々独り占めしてると思うが?」

 バチバチと音を立てて睨み合う
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 唇に触れる冷たい熱   思い出の先を紡いで 1

    「ただいま」「おかえり、紗綾《さや》。昼過ぎに実家のお母さんから、何か大きな荷物が届いてたぞ」 要《かなめ》と二人で暮らすマンションに仕事から帰って来れたのは二十時過ぎ。まだまだ不慣れな事もあるが、少しずつ自分が担当する業務も増えて残業する日も少なくない。 今日の要は有給消化で強制的に休みを取らされている、そうでもしないとこの人はちっとも休もうとしないから。「ああ、それは私がお母さんに頼んでおいたの。まだ残してあるって聞いて、久しぶりに見たくなって」「残してあるって、何の話だ?」「……ふふ、まだ内緒」 彼は中身を気にしているようだが、今は秘密にしておきたい。見る前に取り上げられたりしては、せっかく母に頼んだ意味がなくなるものね。 早く開けて確認したいけれど、疲れたしお風呂にも入りたいなと考えていると……「夕飯と風呂の準備は出来ているから、先に湯船に浸かってサッパリしてくるといい」「嬉しいわ、ありがとう」 互いの休みが重ならないときは、こうやって家のことなどをしている事が多い。彼も休みを好きに使えばいいのに『紗綾と一緒でなければ、外に出る意味はない』と。 再会した幼馴染の意外な執着愛に戸惑う事もあったけど、今はそれすら愛おしいと感じれる。それくらい要との日々は喜びに満ちているから。 入浴をすませリビングに戻ると、テーブルには既に食事が並べられていて。その美味しそうな香りに、一気に空腹を感じてお腹がくうっと音を立てた。 そんな私に要は早く座って食べろと目で合図してくるから、先に席について彼が座るのを待って手を合わせた。「んん~、凄く美味しいわ。この秋ナスの肉詰め、ポン酢だとサッパリしてていくらでも食べれそう!」「少し多めに作ってしまったから、好きなだけ食べるといい」 分量を間違えたかのように彼は言うけれど、わざと多めに作っているって私は気付いてる。ここに来た当初はなかなか環境に慣れず、私の体重が少し減ってしまったから。 でもそれもとっくに元に戻って、それどころか……「もう、ここ最近は体重が増えて困ってるって言ってるのに」「紗綾は元々が瘦せすぎているんだ、以前より少し増えたくらいが丁度良い」 何度言っても、こうやって受け流される。彼の料理が美味しすぎて、いつも食べ過ぎてしまう私も悪いのだけれど。 ……にしても、今日の要はいつも

  • 唇に触れる冷たい熱   上司と部下ではなく 4

    「今日からお友達、なんですよね? 私と主任、そして御堂《みどう》さんは」 嬉しそうに微笑んでその手を揺らす横井《よこい》さん、そんな彼女を見て少しホッとするの。今の私達ではこうしてあげるのが精一杯だけど、もし何かあった時は本社からでも飛んでくるから。 そう思っていると、どこからかスマホのメロディーが鳴りだした。すぐに動いたのは横井さん、バックの中からスマホを取り出して画面を操作している。「この人もなんだかんだで、相当捻くれた心配性なんですよね。ふふ……」 画面を操作しつつ何か楽しそうな雰囲気の横井さん、そんな彼女が気になり誰の事かを聞いてみると……「ああ、今のメールは伊藤《いとう》さんです。あの人、どうしてか私の番号を知ってたみたいで」「彬斗《りんと》君が? どうして海外にいるはずの彼が、今も横井さんと連絡を取ってるの?」 彬斗君の考えている事は、昔からよく分からないとこがある。けれど、横井さんを巻き込むような事はしないで欲しいのに。「大丈夫ですよ、私だってちゃんと伊藤さんの事は警戒していますから。でも彼は何故か私の愚痴を聞いてくれたりもして……」 予想外の二人が仲良くなっている事に私と要は戸惑いを隠せなかったけれど、当の横井さんは彬斗君を愚痴吐き相手と見ているみたいで。 梨ヶ瀬《なしがせ》さんにはあんなに苦手意識を見せてるのに、彬斗君は平気だなんて横井さんもよく分からないところがあるわ。 「今夜は紗綾《さや》さんを私が独り占めしていいんですよね、御堂さん?」 予約していたホテルの部屋、要《かなめ》と眠るはずのダブルベッドの上で横井さんは私に抱きついている。 彼女は要と正々堂々と勝負をして、私と一緒に眠る権利を手に入れたのだった。 普段はすんなり諦める要だけど今日はよほど諦めがつかないのか、部屋の端のソファーに陣取ったままでもう一つの部屋へと移動する様子はない。「全く、御堂さんも諦めが悪いですよ? 紗綾さんとはいつでも一緒に眠ってイチャイチャベタベタ出来るんですから、今日くらい私に譲ってくれて良くないですか?」 遠回しに要に向かってさっさと部屋を出て行けと伝える横井さん。もちろんそんな彼女に要が黙っているはずもなく……「横井さんは俺たちが空港に着いてからは、紗綾を散々独り占めしてると思うが?」 バチバチと音を立てて睨み合う

  • 唇に触れる冷たい熱   上司と部下ではなく 3

    「それは……また、どうして横井《よこい》さんに?」 横井さんは確かに有能な社員だけど、若いためまだ経験は浅い。課長の補佐を任せるのなら他にいくらでも適任者がいるはずなのに。 私と要《かなめ》は、互いに顔を見合わせる。これはもしかしたらもしかしするのではないか、と。だけど梨ヶ瀬《なしがせ》さんに対して、苦手意識を感じている横井さんにそれを言えるはずもなく…… 「私はそれを聞いてから、部長に何度もお願いしたんです。まだ自分には荷が重い、もっと経験を積んでからにして欲しいと。ですが君にしか任せられないから、の一点張りで」 なんとなくこの話には何か裏がありそうな気がする、隣に居る要も同じことを考えているように見えた。 多分この話を断るのは、置かれた状況的に難しいだろう。ならば少しでも横井さんが前向きに考えれるようにしてあげなければ。「確かに横井さんの気持ちも分かるわ。だけどこれは横井さんの実力を大きく伸ばすチャンスにもなるはずよ? きっと梨ヶ瀬さんの傍で学べることは少なくないと思うの」「それは、分かってるんです。だけど、あの人の傍なんて……」 いつもの横井さんらしくない、だけどそれほどまでに彼女にとって梨ヶ瀬さんは特別な存在だと言えるのかもしれない。 それが良くない意味であったとしても。「今は職場に主任も御堂《みどう》さんもいなくて、私だって心細くなる時があるんです。これから私は誰に相談すればいいのか、とか……」 不安に揺れる横井さんの瞳、彼女の為に今の私が出来る事はなにがあるだろう? 何度も私の事を助けてくれたし、要と上手くいかない時には励ましてくれた。 そんな彼女に私も手助けをしてあげたい……「ねえ、横井さん。こうして離れていても、私にはいつでも頼ってくれていいのよ?」 物理的な距離があったとしても、彼女の心に出来るだけ寄り添ってあげたい……そう思ったの。隣にいる要もそんな私の言葉を黙って聞いている。「でも上司である主任に、そんな風に甘える訳には……」「そうね。だから、今までみたいな上司と部下ではなく……貴女の友達の一人として横井さんの力になりたいの。それじゃあ、駄目かしら?」 横井さんは私が本社勤務になった後も、こうやって私や要の事を上司として慕ってくれている。それは勿論嬉しいけれど、もう、そんな壁は無くしていいんじゃないかって思っ

  • 唇に触れる冷たい熱   上司と部下ではなく 2

    「ええっ!? 騙されてるって、そんなまさか」 騙されるも何も、私はその梨ヶ瀬《なしがせ》さんという男性に会ったこともないわけで。横井《よこい》さんが梨ヶ瀬さんを嫌っている事は十分すぎるほど分かったけれど、あまりの言われように少しだけ彼が気の毒な気もしていた。 それにしても、梨ヶ瀬さんの事を一番知っているはずの要が何も言わないのはどうしてかしら? 一度だけ梨ヶ瀬さんの事を聞いた時、そう悪い印象を持っているようではなかったのに。「いいえ、あの男は絶対に本性を隠しています! 誰にでもニコニコと愛想良いフリをして、その裏で何を企んでいるか分かりませんよ?」 上司である梨ヶ瀬さんの事を、テレビで出てくる仲間のフリをした悪役だとでも言いたげな横井さん。何があったら、ここまで嫌うことが出来るのかしら? その理由がなんなのか気になって、聞いてみようとした時……「横井さんは、梨ヶ瀬の何がそんなに気に食わない? 確かにアイツには裏表のある男だが、それで君を傷付けたりするような奴ではないはずだ」 話しに割り込んできた要《かなめ》のその言葉に、横井さんは悔しそうな顔をして俯いてしまう。そんな彼女を見て、横井さん本人も本当は梨ヶ瀬さんが悪い人ではない事を分かってるのだと気付く。 それならば横井さんは梨ヶ瀬さんの事を、どうしてこんなに毛嫌いしているの? 「ねえ? 横井さんだって本当は梨ヶ瀬さんがそんなに悪い人じゃないって、本当は分かっているんじゃないの?」 優しく聞いてみれば、横井さんはゆっくりと首を振ってみせる。この様子からすると、ちゃんと分かってるけどそれを認めたくないという事なのかもしれない。 あの彬斗《りんと》君の時でも、横井さんはここまで嫌がるような素振りは見せなかったのに……「分かってるんですよ、梨ヶ瀬さんが有能な人だって事は。でも彼のなんとなく重い雰囲気とか、笑っているのに冷たさを感じる瞳がどうしても好きになれないんです」 重い雰囲気に冷たさを感じる瞳? 要から聞いた話と全く違う、横井さんの感じている梨ヶ瀬さんのイメージが引っかかる。横井さんも要も人を見る目はあるタイプなのに、こんなにも感じ方に違いがあるものなの? 要も横井さんの発言を聞いて、少し不思議そうな顔をして考えている様子。「波長が合わないんでしょうか? どうしても私には他の人が言うよう

  • 唇に触れる冷たい熱   上司と部下ではなく 1

    「主任~! もう……なかなか来てくれないから、何度そっちに飛んで行こうかと思ったか!」「あら、今日の横井《よこい》さんは少し甘えん坊なのね? 新しい仕事に慣れなくて休みが取れず、来るのが遅くなっちゃってごめんなさい」 空港まで迎えに来てくれて横井さんにぎゅうぎゅうと抱きしめられて、嬉しいのと苦しいので笑ってしまいそうになるの。 数か月前に彼女に会いに来ると話して、実際にこうしてこれたのは今日。会って相談したいことがあると何度も言われたのに、こんなに待たせてしまったのは申し訳ないと思ってる。「そろそろ紗綾《さや》を離してくれないか、横井さん」 二人のやり取りを黙ってみていた要《かなめ》だけど、抱き合う私と横井さんを引き離す様に間に割り込んできた。まさか、要ってば……「伊藤《いとう》さんの時の恩人である私にまで嫉妬するとか、ちょっと酷くないですか? そんなに心の狭い人に、私の大事な主任は任せられないんですけど」「あの時の事は勿論感謝している。だが横井さんが紗綾に、特別な感情を持たないとは言い切れない」 要は横井さんの意外とミーハーな一面を知らないのね、課長代理として要が来た時も横井さんはとてもはしゃいでいたのだけど。 ……そうよ、課長と言えば!「横井さん。私に言っていた話したい事というのは、もしかして例の梨ヶ瀬《なしがせ》さんって人についてなの?」 私がその名前を出した途端、はしゃいでいたはずの横井さんの顔から笑みがスッと消えてしまった。彼女の話から、梨ヶ瀬さんという男性と上手く行ってないのだろうとは思ってたけれど……これは想像よりも酷い状況なのかもしれない。 とはいえ横井さんは本社へと異動した私の仕事を引き継いだのだから、課長である梨ヶ瀬さんと共に業務につくことも少なくはないはず。 横井さんは有能な社員だし、新しい上司である梨ヶ瀬さんとも上手くやっていって欲しいのだけど……「すみません主任、その名前を休日にまで聞きたくないんです。身体中に蕁麻疹が出そうな気がして」 どうやら横井さんは、ちょっと会わないうちに梨ヶ瀬さんアレルギーを発症してしまったらしい。 しかし誰にでも言いたいことをハッキリと伝える事の出来る彼女がここまで嫌うほどの男性って、いったいどんな人なのかしら?「ねえ、横井さん。その……彼のどんなところが嫌なの? 要から聞いた

  • 唇に触れる冷たい熱   二人の時間は穏やかに 6

     ……もちろんだけど、私の気分も悪くないわ。こうしてリラックスしている貴方の髪を梳き見下ろしていると、愛おしさが増す気がするもの。 優しく要《かなめ》の髪を整えていく。今こんな穏やかな時間を過ごせるのも、要や柊《ひいらぎ》社長そして今も支社で頑張って働いてくれている横井《よこい》さんのお陰だと思うから。 あれから横井さんとはプライベートな連絡先を交換し、定期的にメッセージを送り合ったり電話したりしている。そう言えば横井さん、新しい課長と反りが合わないって言ってたっけ?「ねえ、要。新しく支社の課長を任された梨ヶ瀬《なしがせ》さんって男性の事は知ってる?」「……ああ、俺とアイツは同期なんだが。それがどうした?」 閉じていた彼の瞼がゆっくりと開かれ、ちょっと不機嫌そうに私を見つめている。あら、これはヤキモチを妬かれていたりするのかしら? そんな心配する必要ないのに、と思いながらも本当は少し嬉しかったりするの。「横井さんがね、彼とは相性が悪いって悩んでいるみたい。彼女なら誰とでも上手くやれそうなのにね……」「横井さんが、あの男と……?」 要は不思議そうな顔をしたまま、髪を梳き終わり彼の額を撫でていた私の指を掴まえる。そのまま薬指を何度も確認するように触れられるから、少しくすぐったい。「そんなに性格の悪い人なの? 横井さんは詳しく教えてくれないまま『あの人とは合わない!』の一点張りなの」 あの横井さんがそれほど誰かを拒絶するのは珍しく私も気になっているのだが、彼女は頑なに梨ヶ瀬という男性について話したがらない。「いや、俺が知っている梨ヶ瀬は少なくとも性格の悪い男ではないな。どちらかと言えば、明るく周りから好かれる優男なんだが……」 確かに横井さんから、その男性の性格が悪いと聞いたわけじゃない。ただどうしても合わない、そう話を聞いただけ。 でもあの横井さんが、理由もなく誰かを嫌うとは思えないんだけど……「今度、横井さんに会いにあちらに遊びにでも行くか。その時に紗綾《さや》が彼女の話をゆっくり聞いてやると良い」「ええ、ありがとう」 いまだ薬指で遊ぶ要が可愛くて、クスクスと笑いながらお礼を言う。 ……ねえ、要。あなたが私の左手の薬指ばかり触っているの、ちゃんと気付いてるわよ。それって何かを期待しててもいいって事なのかしら?「伊藤《いとう》 彬

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status